先週、スエーデンのヨーテボリ市の教会で、織物の恩師のお葬儀が行われました。

Nさんから送られてきた、お葬儀に使われた棺衣の写真です。

このように見事に収まって、感無量、しばらくこの写真に私は見入ってしまいました。

Nさんから、私が20年以上も前に織った藍の棺衣を、近いかもしれない恩師の葬儀に貸し出しの問い合わせがあったのが昨年の10月。それから4か月、私もNさんも先生の棺衣のために、ひたすら働きました。金の装飾帯を織り上げ、それを持ってスエーデンへ行き、Nさん宅で打ち合わせをして、これで大丈夫と思っていたのですが・・・

葬儀をする教会が決まって、気が付いたのは、「棺衣の大きさが足りない!」でした。

お棺はこのような台の上に置かれるのですが、私の棺衣はお棺をギリギリ覆うだけのサイズで、台が全部見えてしまうのです。台の高さは40センチとのこと。

私の織った棺衣は3畳ほどの大きさなのですが、床まで棺衣を垂らすように覆うには6畳近くの大きさが必要なのです。どうすればよいのか? どんな対策があるか? Nさんも私も考え込んでしまい、どうにもならない場合は教会所有の棺衣を借りることも考えました。

実際に現場を見て対策を考えようと、Nさんは同じ教会で行われる別の葬儀の準備を見に行き、詳しいサイズや参列者からの見え方などを調べ、写真を撮って送って下さいました。それからNさんと色々相談して、参列者から見える部分は床近くまで棺衣を垂らせるよう、見えない部分に別布をはぎ合わせることにしました。

幅を広くするために、金の装飾帯を置いて見えなくなる真ん中の部分に、Nさん手持ちの布を細長く足してはぎ合わせる。

長さを出すために、後ろの見えにくい部分に1畳分くらいの布をはぎ合わせる。↑の写真はNさん手持ちのインドの布をはぎ合わせ用に置いてみた写真ですが、藍の色味も布の質感もかなり違います。

私が織ったもので間に合う布はないか? Nさんのメールを読んでから倉庫を探し、30年近く前に織ったちょうど良さそうな布を見つけ出しました。棺衣と同じ種類のダマスク織の布と金の装飾帯のサンプルと合わせてみると・・・

全体に調和して違和感はありません。

見つけ出した布の表面には藍のアクが出ていて全体にムラがありましたが、湯水に浸してアクを抜き仕上げすればちゃんとなるはずです。葬儀まで後12日、間に合うでしょうか? 私は夜中にアク抜きをして、ストーブの前で乾かし、翌朝仕上げをして、一番速いと言われている郵便局のEMSでNさんに発送しました。次の日は土曜日で郵便局は休みの金曜日のことでした。

Nさんはその間、幅を出す作業を手持ちの布で進めていました。

送った布が着いてからの作業もあります。間に合うだろうか?私はEMSの追跡を毎日チェックせずにはいられませんでした。荷物は翌日中部国際空港を発ったのに、その後音沙汰がなく、4日目にストックホルムで保管の表示、そして5日目にNさんの仕事場に布が届きました。

その届いた布を置いたところです。金の帯も長さも足りなくて、ベースはご覧のように継ぎ接ぎだらけです。Nさんこのような大変な作業を本当に有難うございました。

先生のお葬儀の日、Nさんは接ぎ合せだらけの棺衣を、このように上手にセッティングして下さいました。↑写真は参列者からは見えにくい後ろの部分です。

サイドは台が見えますが、ひどく気になる程ではありません。

正面から見ると、継ぎ接ぎしてあるとは思えません。

織物の先生のお葬儀なので、先生に喜んで頂けるか、織物関係の参列者も多いのである程度のレベルは維持したい、私もNさんも必死でした。

お葬儀の後、Nさんから写真とメールが届きました。「棺衣はご覧のようにうまくおさまりました。参列された方々からも評判がよくて嬉しかったです。ご安心ください。」

いつも難しい宿題をだす先生でしたが、今回も大変な宿題でした。先生有難うございました、沢山勉強できました、おかげで私の織物に対する覚悟が固まった、そんな気がしています。