昨年の夏、仕事場の倉庫にあったご先祖様の着物を大整理して、この古い着物で袈裟を縫いたいと思った私。昨夏以後横浜の家の片付けと貸し出しや、伊豆の仕事場の鹿猪除け柵の設置で等々で、作業がなかなか進まないでいました。

古い着物をはぎ合わせ重ねて作る袈裟「糞掃衣・ふんぞうえ」、その刺し子縫いが一昨日遂に終わりました。

暑かったこの夏、我が仕事場で唯一エアコンがある小部屋(洗濯室)に閉じ篭って、私はひたすら刺し子縫いをしました。

自分になりきって無心に針を運ぶ、それは静かで満ち足りた幸せな時間でした。

「糞掃衣・ふんぞうえ」にしたい着物を何点か選び、それらを解いて洗い干して反物に戻すは、昨年一夏かけて行ないました。この作業を通して私は、昔の着物の美や職人の心や技、それを大切に着た人達の心がヒシヒシと伝わって来ました。

そして布に対する敬意無くして「糞掃衣・ふんぞうえ」は縫えない気持ちになり、私は心身を整えて「糞掃衣・ふんぞうえ」の制作に向き合いました。

今年の3月半ば・・・

使う布が決まり、裁断した生地を出来上がる袈裟の順に並べてみました。

オーガンジーの芯布の上に古い着物をはぎ合わせた表地をのせた長方形の布、私が作るのは九条の袈裟なので、これが縦方向に3枚・緯方向に9列、合計27枚を縫い合わせて1枚の袈裟にします。

土台になる表地と芯布をしつけで止めてから、それを仕事場の床に並べ、何日も眺めて表地の上にのせる小布のイメージを膨らませました。

上にのせる小布の形は自由で、現存している古い「糞掃衣・ふんぞうえ」も、抽象的なもの、山型、雲型など色々あります。

私は使いたい古い着物の持っている世界に呼応する”山型”にする事に決め、着物の柄を生かせるように注意しながら山型の小布を切り抜いて行きました。

この作業が楽しくて、山型の小布を少々作り過ぎてしまいました。

山型の小布の位置を決めたら、先ず小布の周囲をかがります。

そしてチャコで線を引いてから、前面に刺し子縫いをして、芯布・表布・小布を刺して一体化させます。「糞掃衣・ふんぞうえ」は、使い古した布を集めて作るので、この工程が古布の補強と再生になるわけです。

一昨日最後の刺し子縫いのための糸をボビンから引いた時のワンショット。

縫い糸は2本どりなのですが、糸1本を針に通して2本どりにすると撚りがかかりやすいので、私はボビン2つから糸を2本引いて針に通して刺しました。

最後の刺し子縫いの糸を引いた時、1つのボビンの糸も最後になりました。

このボビンは500m巻、500m近く刺し子縫いしたと言う事です。ちょっと休憩が必要、一休みしてから後半の作業に入りたいと思います。