理学療法士さんの「織る事をリハビリと考えてスタートしては?」の言葉で、私は仕事場の大掃除と織機の掃除やメンテナンスに取り掛かり、それは1週間かかりました。

経糸を織機にセットアップするのは未だでしたが、私は掃除の終わった織機に向かい、骨折した右足で恐る恐るペダルを踏みこんでみました。 ペダルが下がりました!踏み込めたのです! 8月末には、力が入らずペダルが下がらなかったのに、踏める様になったのです!

それから更に1週間かけて、私は先ず棺衣のための金の装飾帯を織った方の織機を調整し、経糸をセットアップしました。

縦糸のセットアップが終わり、織り始めてみました。右足はペダルを踏み込めるのですが、力が踝の変で抜けてしまってシッカリつま先まで力が伝わりません。6本のペダルの右側3本は右足で踏むのですが、気が付くと右から3本目を左足で踏んでいます。

それでも何とか織り進めました。

この織機は、恩師が教えていた学校で開発されたもので、身体に易しく設計されていて”手織り機のロールスロイス”とも言われています。私は昔別の織機を3台使っていたのですが、織り続けるうちに身体に負担が来て手首や膝を痛めてしまったので、このスエーデンの織機に全部取り換えたのです。

この織機を教えて下さったのも恩師C先生です。私は感謝の気持ち一杯になり、先生の片腕だったNさんが最近まとめられた先生との共著を、そっと機の上に置きました。

それから1週間かけて、私はもう一台の織機のセットアップにとりかかりました。

窓辺に置いてあるこちらの織機の経糸は、外光にさらされた部分が風化しています。駄目になった部分を捨てて、織れる部分まで経糸を引っ張ってセットアップしなければなりません。

指で引っ張ると指に食い込むほど丈夫な絹糸ですが、引っ張るとプツンと切れるほど風化していました。駄目な部分を引っ張て切り捨てます。

大丈夫そうな部分の経糸を手前に引いて、織り始められるように結びつけます。

この織機はダマスク(緞子)を織るようにセットアップされているので、模様織のために経糸を途中で引っ張て上下させます。そうすると経糸にテンションがかかり、弱っていた経糸が切れるのです。それを1本1本取り替えたり繋いで・・・

何とか織れるように1326本の経糸のセットアップが完了し、織り始める事が出来ました。

心身ともに神経を使って身も心も細るような作業でした。

私はホッとして、NさんとC先生の共著「ツタンカーメンの衣装復刻」を機の上に置き、感謝の気持ちを祈りました。

私が織物を諦めないで今も続けていられるのは、本当に沢山の皆さんのお力添えがあったからです。皆さん本当に有難うございます。今からリハビリに励んで織物の仕事の完全復帰を目指します。