Mさんが退院して自宅療養が始まって、私は長時間家を留守に出来なくなりました。
伊東の仕事場の制作機械の点検、何百キロもある貴重な糸の管理、これを怠ると織物が出来なくなってしまいます。留守だと鹿や猪が遠慮なく侵入して来て、25年かけて育てた山野草や木が食べ尽くされてしまいます。何としても点検に行かなければ大変な事になってしまう!
意を決して、Mさんの朝食と昼食と薬の用意をしてから日帰りで伊東に行く事にしました。クリスマス前、久し振りに仕事場に着くと、ポストに素敵な包が入っていました。
デンマークの友人Winnieからです。
プチプチの封筒に宛先をプリントしたシールを貼っただけ・・・ 彼女からの郵便物はいつも自由で囚われていない包装で、近所に自分で届けるような、そんな感じなのです。
プチプチを開けると、Winnieの世界が飛び出してきました。
彼女の色、彼女の織り、彼女の確かな技術 ・・・
「よろけ縞」という、密度を変えられる筬を使った作品です。
「よろけ筬」を使ったタオル とあります。
Winnie は作品を雑誌に発表したり、教えたり、北欧では知られた織物作家なのですが、彼女は家庭で日々使うタオルを織ってこの世界に入り、晩年の今またタオルを織るのに戻っているのです。
長く織物を続けていると、色々な糸が山ほど貯まってきます。色々な糸を自由に混ぜて織り上げたこのタオル、あれこれ使っても構造的にしっかりしていて、かつ彼女の世界がちゃんと出ている。そこに彼女の実力と力量を感じて、私は感心してしまいました。
私も早く仕事を再開したい。
Winnie と私は、そんなに歳が変わらないのです。
彼女の手紙の最後に Memento Mori と追伸がありました。
Memento mori メメントモリ 死を忘れるな
生きる覚悟として、私の頭の片隅に何時もあるラテン語の言葉
Winnie あなたもだったのね
死があるから際立つ生を、私も思い切り生き切ろう!